
第1章:爪橋の伝説
静岡の小さな漁村では、海が秘密を囁く。そこに、誰も夜に近づかない古い橋がある。「爪橋(つめばし)」だ。漁師たちは、そこの風はただの風ではなく、亡魂の嘆きだと語る。1948年、麗子(れいこ)という美しい演歌歌手が、地元の祭りで歌った後、姿を消した。彼女の最後の曲は、失恋の悲しみを歌うもので、聞く者の涙はまるで焼けるようだった。麗子は赤い扇子を持って爪橋に向かう姿が最後に目撃され、翌朝、橋で血に染まった扇子が見つかった。彼女の遺体は見つからず、夜になると海から非人間的な歌声が響き始めた。
第2章:口裂けの歌の誕生
麗子の失踪後、村人は夜に海から歌を聞いた。それは、喉が切り裂かれ、縫い合わされるような音だった。「口裂けの歌(くちさけのうた)」の伝説が生まれた。麗子は海の妖怪と契約し、永遠の声を得る代わりに、口を耳まで裂かれ、舌は黒い海藻の塊に変えられた。今、彼女は嵐の夜、爪橋に現れる。濡れた着物から死の匂いの海水が滴り、顔はヴェールで隠れているが、近づくとそれが落ち、歯と海藻が蠢く裂けた口が現れる。
第3章:歌の誘惑
爪橋で柔らかな歌声が聞こえたら、立ち止まれ。音を追うな。それは口裂けの歌だ。彼女は霧の中から現れ、「歌を聞かせて…綺麗か?(うたをきかせて きれいか)」と歌う。「はい」と答えると、彼女は冷たい手であなたの口を引き裂き、彼女の歌に無理やり加える。「いいえ」と答えると、海藻から伸びる爪で顔を切り裂き、彼女と同じ口を持つ呪われた者に変える。生き残っても、逃げられない。彼女の歌は魂を切り裂き、永遠に共鳴する。
第4章:呪いの夢
死よりも恐ろしいのはその後だ。麗子の歌を聞いた者は、海の夢を見る。藻に絡まれ、裂けた口の犠牲者たちが歌う姿が現れる。夢は毎夜リアルになり、目覚めると口に塩の味、腕に爪の痕が残る。やがて、喉に空虚を感じ、勝手に麗子の歌を口ずさむ。すると、爪橋があなたを呼ぶ。あなたの声はもうあなたのものではない。
第5章:逃れる術、しかし…
古老たちは脱出法を語る。歌を聞いたら、目を閉じ、耳を塞ぎ、爪橋で自分で釣った新鮮な魚を捧げ、「海に還れ。(うみにかえれ)」と言う。魚は純粋で、深夜0時前に捧げなければならない。海が拒否すると、水が血のように泡立つ。その時、肺が潰れるまで走れ。彼女があなたを見つけ、声は彼女のものになる。
第6章:最後の警告
歌を聞くな、橋を渡るな。爪橋は嵐の夜に静かに待つ。口裂けの歌に挑むなら、覚悟を決めろ。さもなければ、彼女の歌があなたを永遠に海に縛るだろう。